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Jacta Alea est.
第1章 叙任式
アヴィレスは受け取った手紙の封を恐る恐る切ると、意を決したようにそれを広げた。手紙の下には<交差した双つの鍵>の印とジョナサン・カートルの署名があった。「教皇ニコレウス3世」としてではなく、幼い頃からの友人として、彼はこの手紙を送ったのだ。



アヴィレス・バトラーへ

遺言状だと知って驚いているだろう。
久しぶりの手紙が、このような形になってすまない。生きている間にお前に会いたかった。また幼きあの日々のように、お前と一緒に馬で駆って、川で遊んで、狩りに興じたかったが、どうしても神は私を御下に招きたいようである。自分の弱った身体が情けない。


急いで書いたような斜めの筆跡に、アヴィレスは懐かしさを感じた。インクも乾かぬ内に書き始めるので、彼の右手の平がいつも真っ黒だったのを思い出した。


お前が世界を旅し、海を越えて多くの武勇をなしたことは私の耳にも届いている。お前の話が出る度に、友人として鼻が高かった。
だからこそ、最も信頼ができるお前に、私の後継者を頼みたい。まだ若く未熟な教皇を、導いてやって欲しい。迷える人々を救う教皇が、道に迷ったりしないように。

燃える炎の中に、道が示されるように。


手紙を黙って読みながらも渋い表情を崩さないアヴィレスに、メーヴェは怪訝な表情で、何が書かれてあるのかと促した。


「前教皇はなんと……?」
「……若く未熟な教皇を、導いてやってほしいと」
「…なるほど、それだけですか?」

メーヴェの勘繰るような視線を感じ、アヴィレスはその手紙を手渡した。最近即位した教皇を導くとはいっても、どうして聖職者でもない自分が選ばれたのか腑に落ちなかった。
神の道を指導してやれるのは先代の教皇だったり、自分の学びや悟りを通してである。アヴィレスは手紙にも書かれてある通り、剣士として世界中を放浪していただけの身であった。

手紙に一通り目を通したメーヴェは、またアヴィレスにそれを返した。


「『燃える炎の中に、道が示されるように』とは、死に際に随分と詩的な表現をなさいましたね」

ユリイカ教において、炎は生命を表す神聖なものだ。だからこそ聖都に暮らす高位聖職者の聖衣の色は燃えるような赤で、大聖堂の鐘楼にある聖火は常に絶やされないようにしてある。
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