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Jacta Alea est.
第1章 叙任式
「貴方を最期まで信頼なさっていたようだ。確かに教皇は若いがゆえに経験が浅く、道を間違えるかもしれない。世界中を旅した貴方が、彼を導くことを期待されたのでしょうね」

メーヴェはそう話しながら、ゆっくりと立ち上がった。アヴィレスは支えようと腰を浮かしたが、メーヴェは気前よく微笑んでそれを制した。


「貴方の叙任式は明朝になります、午後からは会議があるので教皇と出席なさってください。長旅だったのに長居して申し訳ない。御用がありましたら、そこらにいる騎士になんでも仰ってください」

メーヴェは腰に手を当てながら、ゆっくりとした足取りで扉に向かった。明日の連絡事項を話しながら扉を開き、丁寧に頭を下げて退室してしまった。

一人取り残されたアヴィレスは、手元にあるニコレウス3世の手紙にもう1度目を通す。
なぜか心に引っかかるものを感じた。旧知の仲とは言え、わざわざ自分宛てに書いたにしては他人行儀で、どこか内容が薄っぺらい気がしたのだ。
まるでアヴィレス以外の誰かに読まれることを想定したような変哲もない文章。優秀な剣士なら世界中を探せばいくらでもいるのに、旧知の仲である関係性の人なら他にもいるだろうに、どうして自分なのか。


「『燃える炎の中に、道が示されるように』…」

アヴィレスが小さく最後の文章を呟いたちょうどその時、暖炉の燃えた薪がバチッと音を立てて崩れた。燃え続ける炎を見つめながら、アヴィレスはゆっくりと暖炉に近付いた。

不規則に揺れる炎の柱を見ながら、アヴィレスは眉間に皺を寄せた。ぱちぱちという耳に心地よい火の音も、今は薄気味悪く感じた。
どうしてジョナサンはこの手紙を遺言状として遺したのか。

アヴィレスはおもむろに手紙を火柱の上に差し出した。じりじりと紙が焼ける感覚がある。羊皮紙は動物の脂を少なからず含んでいるものも少なくないので、すぐ火がついて燃え上がるかと思いきや、遺言状はじわじわと焦げを広げるだけだった。


「……これは…」

中々燃えない手紙を火から引っ込めて確認すると、真っ黒になった羊皮紙に微かに白く字が浮かび上がっているのを発見し、アヴィレスは驚いて目を見張った。

紙が二重になっていたのか、はたまた白インクで書かれたものが火によって炙り出されたのか、そこにはジョナサンと同じ筆跡で、小さく殴り書きがしてあった。
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