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Jacta Alea est.
第1章 叙任式

お前を巻き込んでしまってすまない。
だが信頼して頼めるのはアヴィレスしかいないのだ。
私は近々殺される。あの子の傍にいてやれない。

ソラは神に遣わされた子だ。
あの子を、あの子の秘密を、教会の腐敗から守ってやってくれ。傍にいてやって欲しい。


決して見つからないように小さく書かれたジョナサンの文字を読んで、アヴィレスは背筋が凍るような気がした。得体も知れないものに対してゾッとした感覚を覚え、どくどくと速く鼓動する心臓の音が耳に響いていた。


ジョナサンが、前教皇が殺された────。
この神の恩寵が溢れる聖都アルカディアで、教皇が何者かに殺されたのだ。その事実を知る者はいるのか、メーヴェ大司教は知らないのか、そういった考えがぐるぐると駆け巡った。

アヴィレスは真っ黒になった手紙を小さく折りたたみ、誰にも見つからない場所に隠そうとして辺りをきょろきょろと見回した。しかし、幼馴染みが殺された大聖堂となっては、どこかしこも信用ができず、思わず自分の荷物が入ったバッグの奥に遺言状を隠した。
ふらふらとした足取りでソファーに再度深く腰掛け、グラスに残っているワインを一気に煽る。酒でも飲まないとやっていられない気分だ。しかし酒を飲んでも気分は全く変わらなかった。


ソラというのは、現教皇フェリクス6世の本名だろうか。教会から守るべき彼の秘密とは一体なんなのか。教会の腐敗とは何なのか。自分が巻き込まれているこの状況は、もしかしたらとんでもなく危険なことなのではないか。

湧いて出てくる疑問についてぐるぐると考え込んでいる間に夕暮れも過ぎてしまい、部屋が徐々に暗くなってきた。春だからか日の入りは遅いが、あらかじめ蝋燭に火を灯して、明かりを確保する。その蝋燭を持って部屋に置かれたランプに明かりを灯している時、コンコンと控えめに扉がノックされた。短く返事をすると、給仕係の若い修道僧が夕食の乗ったトレイを持って入室してきた。


「あ、申し訳ございません。疲れているでしょうに、明かりを点けさせるなんて」
「あぁ……いや、お構いなく。動けないほどへとへとなわけではないので」

若い修道僧は申し訳なさそうに頭を下げると、テーブルにトレイを置いて食器を配置し始めた。アヴィレスはその手際をぼんやりと眺めながら、蝋燭をランプの脇に置いた。

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