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Jacta Alea est.
第1章 叙任式
「君……あの、少し質問があるのだが…」
「はい、なんでしょう、サー・バトラー」
「明日叙任されるというのに現教皇のことをあまり知らなくてね……名前とか出身とか…、君が知っている範囲で構わないから教えてくれないか?」

フォークやスプーンを配置し終え、グラスにワインを注いでいる修道僧にアヴィレスは控えめに問いかけた。修道僧は感情の読めない表情でアヴィレスに視線を向けて、ワインを注ぎ終わった後、考え込むように小さく唸った。

「……あの人は謎なことが多くて…、僕に訊くより大司教の方々に訊いた方が詳しいかもしれません。出身は分かりませんが、お名前はソラ…確かソラ・シディアスで、お若い方です。遠くからしか見たことはありませんが、小柄な方です」
「…そうか、ありがとう」

メーヴェ大司教も現教皇のことを「若く美しい」と評していた。
教皇になるのは50代や60代の高齢者が多いが、皆が言うほどということは30代位の年齢だろうか。自分より年下かもしれない教皇というわけだ。そしてシディアス家という家名に聞き覚えはない。少なくとも貴族や皇族といった名家ではないのかもしれない。もしくは、この西大陸(ウェストゥア)の家名ではないのかもしれない。

アヴィレスが黙りこくって考え込んでいる間、夕食の準備が終わった修道僧は気まずそうに突っ立っていた。自分の心もとない返答が相手の気分を害してしまったのではないかと不安になっているのだ。

「…あの……」
「……あ、あぁ、すまない。明日大司教たちに訊いてみるとするよ」
「…では、風呂を沸かしておきますので夕食を召し上がったらお入りください。他に御用がありましたら、廊下に騎士の皆さんや我々修道士もいますのでご遠慮なく」
「あぁ、なにからなにまでありがとう。風呂は自分で入るからお気遣いなく」

年相応の渋い笑みを浮かべるアヴィレスの言葉に、自分が粗相をしたわけではないと察した修道僧は嬉しそうににっこり笑うと、頭を下げて退室した。

用意された夕食は、さすがに聖都なだけあって豪華なものだった。羊肉と春野菜をふんだんに使ったスープと、ライ麦や小麦のバケットが皿いっぱいに盛られている。聖都に向かう6日間、なるべく旅籠に泊まるようにして温かいご飯を食べるようにはしていたが、やはり豪華さが異なる。途端にお腹がすいてきて、アヴィレスはかっこむようにして食べ始めた。
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