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姫巫女さまの夜伽噺
第6章 志摩の過去
「志摩、つまみ食いは良くないんじゃないの?
今日も明日も明後日も
伊良は僕の躾けを受ける番だよ?
躾けの後を見るのが嫌なら
そこで最中を見てるかい?」
「つまみ食いもなにも
俺のでもお前のでもないだろ。
この女は山のものだ。
だから誰かが好き勝手していいもんじゃない」
「へえ、そういう言い方するんだ。
前の姫巫女恋して
どれだけ君が傷ついたか僕には計り知れないけれど
そんな志摩の忠告は重みがあるなぁ」
その穂高のさらりとした言い方に
伊良はその意味を反芻しなければ理解できなかった。
「前の…? 志摩が恋…?」
伊良はやっと理解して
目の前の志摩を見つめた。
志摩は少し目を細めたが
伊良を見つめると、ゆっくりと目を閉じた。
穂高は入り口の柱に寄りかかりながら
袂に両手を入れて
爽やかで柔らかな笑みを見せていた。
「伊良、志摩の事を話してあげる約束だったよね。
せっかくだから、このまま話そうか。
志摩はね、前に山に落とされた人間の女に恋したんだ。
それで…」
「いい、穂高。俺が話す」
志摩が穂高の声を遮り
穂高は眉を上げると
まぁいいか、と艶やかに微笑んだ。
穂高に向けられていた視線が伊良を見つめる。
「あいつは…」
志摩は思い出すように
伊良から少し視線をずらして
遠い過去へと記憶を登った。