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姫巫女さまの夜伽噺
第7章 癇癪鼠

「あれ、穂高様はいらっしゃらないのですか?」


近江の問いかけに
そのうち来るだろ、と志摩がそっぽを向いた。


その事に関してはあまり機嫌は良くなさそうだった。
そんな志摩をチラチラと見ながら
騒ぎ立てる回廊の入り口まで来ると
どよめきのような、殺気のような
気がものすごい勢いで伝わって来る。



(…なんなの、この騒ぎ…)



思わず足がすくみそうになって
駕籠に乗っている事に安堵を覚えた。


ほっと一息つくと
「伊良」と優しく声をかけられる。


「…穂高…?」


見れば、若干具合が悪そうな穂高が
柔和な笑みで小窓の外から伊良を見つめていた。


「顔色悪いけど、大丈夫?なんかあったの?」


その伊良の反応に、穂高は若干面食らった顔をした後
堪え切れなくて笑い始めた。


「え、どうして? 私、なんかしちゃった?」


慌てる伊良に、反対側から志摩が覗き込んで
腹を抱えて笑う穂高を見て、複雑な顔をした。


「志摩、私何か変なこと言った?」


志摩は伊良にデコピンをする。


「お前、あんまり穂高を笑わせるなよ。あいつ、具合悪いのに…」


「大丈夫だよ、志摩、伊良。
ちょっと…いや、かなり面白くて…。
だって、あんまりにも邪気がなくて…」


その穂高の答えに志摩は納得したのか
ため息をついた。


「穂高は、お前に嫌われてると思っていたらしい。
だけど、お前があまりにも素っ頓狂だから、穂高も拍子抜けしたんだと。
ほら、お前らそろそろしっかりしろよ。
特に穂高、お前は主人代行なんだから!」


志摩の声に、穂高は涙を拭いて、しゃきっと立った。
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