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姫巫女さまの夜伽噺
第7章 癇癪鼠
「じゃあ行こうか」
穂高の掛け声とともに
回廊の障子が一気に開くと
さらに濃厚な熱気が立ち込める。
そしてひときわ歓声が起こった。
(え…なんなの、この騒ぎ…!)
あまりの事に、伊良はびっくりしてしまったのだが
大丈夫だよ、と穂高に微笑みかけられて
全身の震えが収まった。
穂高が長ったらしい口上を述べると
宿全体が静まり返る。
穂高のその声は透き通り
本当に宿の主人なんだと伊良はつくづく思い知らされた。
いつの間にやら穂高の口上が終わっていて
お客と奉公人の大きすぎる歓声に背中を震わせて現実に引っ張り戻された時
ゆっくりと駕籠が揺れ動き
前へと進み始めた。
慣れないそのゆっくりな動きに戸惑いつつも
伊良は小さな窓から外をチラリと見つめた。
(…え…!)
一瞬にして見たことを後悔した。
目に映ったのは、異形の者たち。
不気味な形をした生き物、人間のように見えるが肌がどす黒い者。
身体が人間なのに、顔は馬の者。
目がいくつもあったり、不自然な形の者。
道具の妖怪なのか、日用品に手足が生えたような者。
ありとあらゆる不思議な生き物たちが
目を輝かせて伊良を凝視していた。
その視線のあまりの重圧に
伊良の全身から汗が吹き出た。