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姫巫女さまの夜伽噺
第7章 癇癪鼠
「おいど阿呆、そんな顔している暇ないぞ!
客のとこに行くぞ!」
「え、聞いてないよ!」
「当たり前だ、今言ったんだからな!」
お飾りを取ろうとしていた伊良の手首を
ひょいとひねり上げて
志摩はあっという間に彼女をお姫様抱っこする。
「ちょっ、志摩、下ろしてよ、自分で歩ける!」
急に抱き上げられた事で
突如恥ずかしさがこみ上げてきたのだが
志摩は聞く耳を持たずで
どんどんと廊下を歩いて行く。
今まで伊良が歩いたことのない廊下は長く
いつまで経っても続いているような錯覚に陥った。
「なんで、急に言ったの?
事前に教えてくれればいいじゃん」
「ど阿呆を通り越してるな。
言ったらお前、身構えて寝れないだろうが。
寝不足で客の前に出すわけにはいかないだろ」
とは言いつつも
伊良のことを気遣ってくれたと言う事に変わりはなく
そのちょっとした心遣いに嬉しくもなり、照れ臭くもあった。
なんとなく嬉しくて志摩の胸に頭を預ける。
どくどくと聞き慣れた心臓の音は心地よく
このままいつものように時がすぎるかと思われた時
志摩が始まりを告げた。
「着いたぞ」
見れば、長い廊下の突き当たりに
まるでそこだけ違う空間にでも行くかのような
両開きの引き戸があった。
「お前の姫巫女としての初夜だ。
お客はお前を待ちかねている」
「志摩は…」
「この先、お前は一人だ。だけど、俺は衝立の後ろにいる」
一瞬ゾッとしたのだが
志摩が近くにいると言うのを聞いて、伊良は安堵した。