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姫巫女さまの夜伽噺
第10章 人間の世界
「まって、志摩、歩くの早い!」


「ああ、悪い」


悪びれもしないその言い方と
いつもよりも早足の速度に
伊良は口を尖らせて文句を言いながら
志摩の裾をつまんで歩いた。


「どこ行くの?」


「黙ってついて来い」


横暴だなと思いながらも
ついていった先には、見たことのない湯殿があった。
ここの宿は、複雑怪奇に廊下や部屋があって
それが日毎に入れ替わったりするようになっているらしい。


それなりの順序があるようなのだが
まだ日が浅い伊良にはどうも良くわかっていなかった。


志摩は慣れた足取りで、その湯殿へと向かう。
スタスタと入って行くので
伊良は慌てて追いかけた。


「どうしたの、志摩、なんか今日変だよ?」


「そうか?気のせいだろ?」


それよりも、と志摩は脱衣所で振り返ると
伊良の手を引っ張った。


「こっちだ」


手を引かれるままに、脱衣所を通過し
そして内湯へと入る。


「え、何、どうしたの?」


それに志摩は答えず
ただ伊良を引っ張る。
何か様子がおかしいのだが、志摩は志摩なので
今日は機嫌でも悪いのかと思って内湯を抜け
ひらけた露天へと向かった。
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