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姫巫女さまの夜伽噺
第12章 夜伽噺の終わりに
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「だから、やっぱり事前に言ってよ!」
人間の食べ物を食べ、治療されたために
伊良の人ではなくなった体は恐ろしく疲弊した。
そのせいで若干寝込んだのだが、
その後めきめきと回復し
数日後にはすっかり良くなった。
穂高が朽葉の最期を伝えると
「そんな、酷い…」と少し涙ぐんだ。
「ったく、お前はどうしてそんなにお人好しなんだよ!
あんな奴にくれてやる涙まで持ち合わせてるなんて
神か仏か、鈍いやつかのどれかだ!」
志摩は暴れる伊良を抱きかかえ
そして、今夜の相手の元へと運ぶ。
何気ない日常だが、伊良には、これが最高潮に幸せで
そして、何でもない日常だった。
「そんな言い方しなくてもいいじゃん!」
「あーも、うるさい。黙れ」
志摩に無理やり口づけされると
嫌がりながらも従順に応じてしまう。
体の芯が火照ってきて
吐息が荒くなる。
「客の前では、その顔見せるなよ」
唇を離すと
志摩が優しく、意地悪な瞳で伊良を見つめた。
思わず伊良の頬が赤くなったところで
地面に降ろされて引き戸から中に放り込まれた。
「あ、ちょっと志摩!ずるい!何なのよ、開けて!」
伊良がとをガタガタ開けようとするが
一度閉まると、戸は開かない。
「ははは。威勢のいいお嬢さんだ。
噂に聞いた通りだね」
そう言って、今夜の相手がにこにこしながら
衝立の奥から現れた。
「あ、ごめんなさい…」
「いいんだよ、さて、こちらへおいで」
「はい」
こうして、伊良の夜は更けていく。
これが、日常で、最高に幸せだった。
志摩に愛され、穂高に認められ
双子に懐かれた。
つい数ヶ月前のゴミのような自分はもういない。
ここには、伊良という、一人の姫巫女が存在する。
彼女の役目は神様たちを喜ばせること。
そして、志摩に愛されること。
今宵も、伊良の仕事は成され
朝日とともに志摩と入浴する時間が流れるーーー。