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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第3章 仕込む
 雨が降り止む気配はなくても、庭に面した定義家の居間は明るく賑やかである。
「な、うまいだろ? 今年はスイートコーンを作っていたんだよ。まだまだあるからね」
 と定義は、皿に盛ったゆで上がったばかりのとうもろこしを、丸いテーブルに置きながら言った。
 亜紀はほうばりながら、
「なるほど、それで柔らかくて美味しいんだ。お爺ちゃん、あとで私がコーヒー入れあげる」
「亜紀ちゃんのコーヒーはうまいから、楽しみだな」

 由香たちは、定義の自宅に頻繁に訪れる。彼には、それが楽しく嬉しいことだった。
 今夜の由香は、健太の運転で亜紀と共に定義の家へ来ていた。父と店長の関係について、報告しておかなければ──と、そう思っていたからである。

 サッシを閉めたガラスの向こうに、降り続く雨が生け垣と庭を濡らしている。
 和室の壁に掛かる時計を見て、珈琲カップから由香の唇が離れた。
「それでね、十時過ぎにお父さんは寄るって言ってた。メールしても返事がないから、たぶん今頃はスマホを軽トラに置きっぱなしで、奈々さんとコーヒータイムだと思う」
 話しを聞いている定義はにんまりとした。息子は再婚する気になったのか、と睨んでいるからだ。
「そうなのかい、今日は奈々さんとデートなのか」
「お爺ちゃん、デートかどうか朝の時点で、それは言っていなかったから分からない。だけど私の勘だと、絶対にデートだと思う」
「あのねお爺ちゃん、私も由香ちゃんと同じ考えで、おじさんはデートだと睨んでる。それにね、彼女は女性店長ふうで綺麗な人なのよ。私、あの人なら賛成。ねっ由香ちゃん?」
「うん、絶対に賛成」
 由香と亜紀は、そう言って顔を見合わせた。
 だが、話しを聞いている健太は、一概にそうだとは思えなかった。あのとき、研修生と書かれていた名札が今でも気になる。野上のおじさんと彼女は、確かに年は離れている。しかし世間や芸能界で、年の差カップルはいくらでもいるではないか、と。
「だけど亜紀、あのショップにもう一人、同じ名前の人がいたんだよな……」
 亜紀は兄をちょっと可愛く睨み、遮るように話し始めた。
「もうお兄ちゃん、また言ってる。あのね、あの人は絶対に違う。名札見た? 彼女はまだ研修生だよ? おじさんと年も合わないよ? ねっ由香ちゃん?」
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