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湯上がり慕情 浴衣娘と中年ピンチ君
第3章 仕込む
 由香はそう言って、じっと父を見ている。
 野上は隣りを見て、わざとらしく笑みをつくった。無実を証明するかのように、片手ハンドルで大袈裟に手をふった。
「違う違う。ちょうどその夜、飲み会なんだよ。本音はみんなと花火大会に行きたいんだけど、付き合いだから仕方ないんだよ」
 目を丸くして言う父の態度を見て、由香はこれ以上の追求は悪く思えた。父とショップの店長さんは、お似合いだと思う。二人には新たな人生を送ってほしい。彼女は話題をかえた。
「そうだった。私、ちょっとお腹すいちゃった。お父さん、帰ったら焼きそばつくってあげようか」
「実は、俺も腹がへったんだよ。大盛りで頼む」
 このとき、うまく誤魔化せたと言わんばかりの父を見て、由香は内心クスッと微笑むのだった。
「了解ですよー。シーフード焼きそばにする? それとも……」

 夜は更けていた。
 雨は未だ降り続いていた。由香の部屋からはカーテンのすき間から明かりが外に漏れ、止む気配もない雨が、屋根瓦を濡らしていた。
 パジャマに着替えた由香はベッドで横になり、亜紀にメールを打っていた。
《あのね、まじめな目をして大袈裟に手をふったのよ。お父さんは今夜、絶対にデートだったと思う》
 健太は亜紀の部屋で椅子に腰を下ろし、隣りから何か言いたげに妹のスマホをのぞき込んでいた。
《そうなんだ。私、名案がある。いつか、店長さんを晩ごはんに誘うよう、おじさんに言ってみたら? そのときには私とお兄ちゃんも誘って?》
《私もそれを考えていたところなのよ。そのときには心細いから絶対に誘う。そのあとで作戦があるんだよね。お父さんたちを二人っきりにさせて、そのあと様子を見るのはどう?》
 送られてきた由香のメールを見て、野上のおじさんに悪いんじゃないのか、と健太は思った。
 一方、それまで居間に流れていたニュース番組が終わり、定義は寝る準備をはじめた。
 その頃、野上は風呂から上がったばかりだ。彼は布団を敷きながら、帰る間際に奈々から車の中で強引にされたフェラチオを思い出していた。

     (四)
 大学卒業後の奈々は、両親から援助をしてもらってこのアパートへ引っ越した。
 外壁は白い新しい建物だ。一階はそれぞれの駐車場で、裏手には左右から階段がある。二戸並んだ二階が居住スペースとなっており、西側が彼女の部屋だった。
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