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身代わりの夜
第12章 ふとどき社内エッチ
(どうしたんだろ。元気ないなぁ)

 加納梨華は胸奥で首を傾げた。

 活気にあふれたマーケティング部の中で、古森啓太だけ生気がなかった。
 パソコンの前にぼんやりと座って、キーボードに乗せた手も止まっている。

 思いつめたような視線の先には、課長の貴野亜沙子の姿があった。

(また貴野課長に絞られた……?)

 広々としたオフィスを横切りながら、梨華は小さくため息をつく。
 さいわい、特設チームのエリアに峻はいなかった。

「これ、役員会議の結果です」

 持ってきた書類をデスクに置くと、亜沙子が顔を上げた。

 艶やかなウェーブヘアに縁どられた細面の美貌は、頭がよくて冷たい印象を与える。
 ネチネチいびるのではなく、理詰めで追い詰めるタイプ。
 いかにも部下に嫌われそうだ。

「ありがとう」

 にこっと笑った。

 吊り気味の眼が弓型に細まり、急に親しみやすい感じになった。
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