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身代わりの夜
第16章 おわかれエクスタシー
 啓太がぺたんと腰をついた。

 梨華の脚もシーツに落ちる。
 裸身の上に崩れてきた男の重みを受け取った。

「うう、梨華さん……ぼく、梨華さんのこと……んっ」

 唇を奪って、青年の言葉をさえぎった。
 舌で優しく口内をまさぐる。

 鼻で呼吸すると、男女の淫臭が匂った。
 交合の激しさを物語る生々しい匂いだった。

 重なり合ったふたりの心臓の音が治まるまで、そうしていた。

「いいこと、今日で最後。
 明日になったら全部忘れるのよ」

 汗の引ききらぬ啓太の頬を、そっと撫でた。
 青年の眼が寂しそうに見えるのは、梨華の気持ちが投影されたため。
 そうに決まっている。

「わたしも忘れるから」

 よかった。
 自然に微笑むことができた。
 それに比べれば、声が震えないようにするのなんて、たいした苦痛ではない。

「亜沙子さんにちゃんと告白しなさい。
 大丈夫。啓太なら、どんな女だって夢中になるわ」

 唇を尖らせて、頬に軽く触れる。
 姉が弟にするようなキスだった。

「だって、こんなに……こんなに素敵なんだもの」

 啓太の声が、梨華の耳朶に優しく響いた。

「梨華さん、ありがとう」
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