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身代わりの夜
第4章 部下ふたり
 亜沙子が山野辺のことを意識するようになったのは、マーケッティング部に移ったばかりの、ある出来事がきっかけだ。

 作業中にPCの電源が落ちて、大切なデータを破損してしまったことがあった。
 スタッフが何日もかけてまとめ直した過去のユーザー傾向。
 バックアップを取らずに作業していた亜沙子の手落ちである。

 全身の力が抜けるのを意識しながらも、その日は出張のために、すぐに会社を出なくてはならなかった。

 さすがに自分のミスによるツケを、部下に押しつけることはできなかった。
 新しいチーフを、全員が煙たがっているのが感じられた。

 翌日、徹夜覚悟で休日出勤すると、復旧されたデータを入れたUSBメモリーがデスクに置かれていた。
 誰かが一晩かけて入力し直してくれたのだ。

 メモリーのデザインに見覚えがあった。
 山野辺が使っているのを見たことがある。

 まわりにひとりも味方がいないような状況で、秘かな助力は涙が出そうなほどうれしかった。
 恩着せがましくしないのも好感がもてた。

 ありがとう、とメモをつけてメモリーを戻しておいた。

 それ以来、この部下のことはずっと心にとめている。

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