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身代わりの夜
第5章 同僚の恋人と
 向かい合ってみると、美しさが際立っている。
 黒目勝ちの大きな瞳に、艶やかで官能的な唇。
 男子社員の人気はいつも一番だ。

 たしか二十七歳だと聞いたから、啓太や峻よりも二歳年上である。

 お高くとまった女が多いと言われる役員秘書だが、艶美な雰囲気に反して、梨華は気さくな性格だった。
 話題が豊富な上に、聞き上手でもある。
 最近見た映画の話で盛り上がる。

 けれど、話の途中で急に物憂げな表情になることがあった。

「どうしたんですか、今日は」

 思い切って尋ねた。

 なんのこと、とでも言うように、梨華は小首を傾げる。
 ショートカットの黒髪が、頬のあたりで揺れた。
 うるんだ双眸にのぞき込まれ、逆に啓太の方があわててしまう。

「な、なんだか、さびしそうでしたので。
 なにか嫌なことでもあったのかなって」

 さっき見た涙が気にかかる。
 明るい笑顔も、どこか無理している感じがあった。

「やだ、へんなこと言わないで……って、バレバレよね。
 実はフラれちゃったんだ」

「まさか、山野辺と……?」

 梨華は自嘲的な笑みを浮かべて、うなづいた。
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