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身代わりの夜
第5章 同僚の恋人と
 梨華が役員たちの行状を面白おかしく教えてくれた。
 普段ふんぞり返っているお偉いさんの失敗談に、啓太も声をあげて笑う。

 ややあって、

「ねえ、貴野課長ってどう? きびしそうじゃない」

「どうって……確かにきびしいけど、バイタリティにあふれています。
 仕事もできるし、尊敬できる上司ですよ。
 ぼくは叱られてばっかりだけど」

「いまのポストに抜擢されて、カレシとも別れたっていうし。
 仕事が恋人なのよね」

(……そうだったんだ)

 別れたカレシという言葉に、胸がざわめく。

「まあ、必死で頑張らないと、あの人もヤバイしね」

 梨華は意味ありげに声をひそめた。

「ヤバイって?」

「彼女、営業からいきなりマーケッティング部の課長じゃない。
 おまけにあの性格でしょう。けっこう社内にも反対派がいるのよね。
 だから、今度の新ブランドできちんと結果を出さないと、地方営業所に飛ばされるって、もっぱらの噂よ」

「そ、そうなんですか」

 昨夜、亜沙子がふと洩らした言葉を思い出す。
 あせる啓太を見て、

「あら、古森くんは大丈夫よ。
 課長が変わっても、チームはちゃんと残るから」
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