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女社長 飯谷菜緒子
第4章 初体験
そんな菜緒子は幸せいっぱいだと思ってミーハーにうらやましがったり祝福したりしていたことが申し訳なく思えていた。結婚の話題で盛り上がったりされて菜緒子はどんな気持ちだったのだろう・・。

「ご、ごめん」
「すまない」

志乃と景嗣は同時に謝罪の言葉を口にした。
こんな時だけど景嗣とハモったことが志乃には嬉しかった。

そんなふたりの様子を見て菜緒子は愉快そうに笑った。

「ふたりとも気が合うね」と冷やかすように言ってみる。志乃と景嗣の距離が近づくように計算しての発言だ。だが・・。

「ボクにも婚約者がいるんだ。だから、つい自分に君を重ねてしまった」と景嗣は語り始めた。

景嗣の父親は大手の金融機関の重役で、頭取の娘と結婚した。だからいずれはその金融機関を継ぐことになる。

景嗣の婚約者はその金融機関の上得意様の社長の娘である。つまり、本人たちの意思など全く関係なく親同士が勝手に決めた政略結婚なのだ。

そんな自分の境遇に菜緒子の境遇を重ねてしまい、つい感情的になってしまったんだという。

「先生はそのお相手のことが好きじゃないの?」
志乃は上目使いでおどおどしながら訊いてみる。

景嗣は静かに首を振った。

「形はどうであれ、ボクたちは恋人となり、やがては結婚するんだ。だから、彼女のことを誠心誠意愛していくんだ」

まるでコンピュータが計算して導きだしたような模範回答だ。だが、機械的なことは全く感じられず、むしろ感情が道溢れている。景嗣のどこか物哀しそうな表情がそう感じさせるのかもしれない。

「先生・・好きな人はいるの?」と菜緒子は思わず訊いてしまった。

自分が翔也のことを想い続けるように、この人にも想い続ける人がいるのだろうかと思ってしまったから。

「いたよ、でも、死んだ」

今度はアンドロイドのように機械的に言った。そんなことを機械的に言うなんてとも思ったが、辛く悲しいことだから敢えて感情を抑えて機械的に言ったんだと悟った。

景嗣が大学生の頃、2つ上の恋人がいた。彼女も科学者で、景嗣は彼女にいろいろなことを教えてもらった。

時々咳き込むのを心配していたが、彼女は難しい病気だということが分かった。治すには莫大な資金が必要で、奨学生の彼女にはそんな資金はとてもない。

病気を抱えながら奨学生までして大学生でいる理由は子供の頃からの夢である教師になるため。
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