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女社長 飯谷菜緒子
第4章 初体験
景嗣と彼女のことは両親の知るところとなって、両親は大激怒して彼女と別れるように迫ってきた。
その頃から両親は水面下で景嗣の縁談を画策していたのだ。

いっそ子供でも作ってしまえばとも思ったが、病気の彼女に負担をかけるわけにはいかないし、両親がどんな暴挙に出るか分からないので断念した。
駆け落ちをしてしまうにも彼女の病気のことが重くのしかかってくる。

景嗣は両親に土下座をしてどんな縁談でも受けるから彼女の治療の資金を出してくれるように懇願した。いや、出してくれなどとは言わない。必ず働いたお金で返すからとも誓った。

だが両親はけんもほろろに景嗣に縁談を承諾させて彼女とは別れさせるも資金はびた一文融通してくれることはなかった。

そして、彼女の病気はどんどん悪化して、ついには還らぬ人となった。

そんなことを感情も出さずに淡々と景嗣はアンドロイドみたいに話してくれた。

「その人は先生が生きている限り先生の中に生きている。先生は一生その人を想い続ける・・なんだかあたしと似ているね」

そう言った菜緒子の頬に涙が流れる。気丈な菜緒子が人前で涙を見せるなんて珍しいことであるが、景嗣と彼女ねことに自分と翔也のことを重ねて感極まったのだ。

こんなことで涙を見せるなんて自分はまだまだ弱い。もっと強くならなくては。最大の愛のために蕀をも踏み潰して生きていくと決めたんだからと菜緒子は思っていた。

「それじゃあ先生、女性経験はまだないんだ」

鼻をかみながら菜緒子は悪戯っぽく言ってみた。

景嗣はコーヒーを吹き出してゴホゴホと噎せた。明らかに動揺している。アンドロイドのような景嗣が急に人間らしくなった。

志乃はそんな景嗣をまじまじと観察した。きっと景嗣はまだ女性経験がないのだろうと思った。愛するように努力しようとしてはいるけど婚約者は愛してもいない女性。初体験はやっぱり好きな人と結ばれたいよね。あたしのことを好きになってくれればあたしが先生の初めての女性になってあげると志乃は思っていた。

「みくびらないで欲しいな。愛し合う男女がいればそこに至る結果となるのは太古の昔から受け継がれてきた自然の法則じゃないか」

と愛を語るにはふさわしくない科学者の口調で、しかし、悪戯っぽく景嗣は言った。

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