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女社長 飯谷菜緒子
第5章 奇妙な結婚生活
「アハハハ」

家に帰ると愛犬ジローの散歩に出かけて誰もいない公園で菜緒子は盛大に笑った。

自分という妻がいながら真次が愛しているのは男だったとは笑うしかない。まあ、他の女と浮気されるよりいいか・・いや、他の女とでも浮気してくれた方がましというものだ。

なんだか可笑し過ぎて笑ながら涙まで出てきた。

笑って泣いている菜緒子を怪訝そうに、心配そうに見上げてジローがくぅんと鼻を鳴らす。

ジローの鳴き声に菜緒子はふと我に返る。
よく考えてみると真次のことを非難したりする資格は自分にはない。

自分だって結婚しながら志乃との同性愛を続けているし、それをやめることなどとてもできない。

志乃とのことを同性愛とか禁断のことと思ったことはなかった。同性愛とかレズとかそんな低レベルのことではなくお互いに大切な人でもっと崇高なところで繋がっているのだと思っていたが、それは志乃との関係を正当化しようとする勝手な理屈でしかない。

自分が真次の姿にショックを受けたように、もし、真次が自分と志乃のことを知ればショックを受けるに違いない。やっていることは同じだ。

それにしても平気で路チューをして、相手の男にじゃれる真次はチャラかったと思い出す。

そう考えると真次のあの姿を見て本当にショックだったのはチャラい姿を見てしまったことでもあるのかも知れない。

真次は母親のことをママと呼ぶようなマザコンのところはあるが、立派な経営者であり、仕事をしている姿は凛凛しい。

そんな真次に少しずつ惹かれていたのだと思う。凛凛しい姿が菜緒子の中の女を刺激したから結婚しても一度も体の関係がないのが寂しかったのではないか。

その真次があんなチャラい男だったとは、幻滅というか興冷めである。

菜緒子はジローを抱き上げて頭を撫でてやる。
いつもの菜緒子に安心したのかジローは嬉しそうに鼻を鳴らす。

「悪いのはあたしの方か、あたしは本当の悪女(わる)だ・・」

同性愛不倫はお互い様として菜緒子はもうひとつ真次を裏切っていたことを思い出した。

真次と婚約していて結婚間近な時点で菜緒子は景嗣に抱かれた。菜緒子にとっての初めての男は景嗣だ。

しかも景嗣は志乃の好きな男だというのに。
自分は最愛の人である志乃も裏切っているのだ。

もちろんそのことは志乃には秘密だか、心の中の大きな負い目である。

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