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女社長 飯谷菜緒子
第8章 愛人契約
狸親父には何人も雌狐がいる。自分も愛人を多数囲っているが、カネや名誉のためなら体をも売る女たちを利用してハニートラップを仕掛けているのだ。

女好きな信彦の一番の好物は人妻であり、ミツバグループの重役や取引先の中には夫は知らない妻の裏の内助の功によってその地位を手に入れた者も少なくない。

その信彦が今まで居間側重工の乗っ取りを画策してこなかったのは寿子の影響が大きかった。
お互いに若い頃には寿子には大変お世話になっていて、寿子には逆らえないようなところがあった。

事の深刻さに真次は愕然となってもう居間側重工は諦めるとまで言い出した。
菜緒子はわたしに任せてと言おうとしたが、そこは言葉を飲み込んで黙った。下手なことを言えば頭のいい真次のことだから菜緒子が色仕掛をしようとしていることはすぐに気づかれてしまうと思ったのだ。

「男でしょ、いつまでもメソメソしているんじゃない」と菜緒子は涙を流して震えている役員たちを怒鳴りつけた。

突然怒鳴られて役員たちに戦慄が走る。

「どうせ居間側重工は終わりだ。ならば一か八か己のしでかしたことは己で取り返してみようとは思わないか」と菜緒子は不敵に笑う。

ミツバに出向いて売却した株を買い戻すように説得しろと言うのだ。そんなことができる自信はとてもない役員たちは項垂れる。

「心配するな、居間側は終わると言っただろ。ダメ元な作戦だ。失敗してもこれ以上お前たちを恨みはしない。どうせなら最後に大きな戦いをして男を見せてくれないか」


不敵に微笑む菜緒子に役員たちは深々と頭を下げた。

役員たちは自分たちの愚かさを恥じていた。
この役員たちは真面目で実直なのだが、家庭では妻と倦怠期であり、女に関してはご無沙汰で寂しくもある。そんな彼等を若くて綺麗な女がたぶらかすのはいともたやすいことだった。

このような失態をしでかした役員たちに最後に男を見せて汚名挽回の場を与えるとは、真次は菜緒子の器の大きさにますます惹かれていた。

それに比べてただ狼狽えることしかできなかった自分が恥ずかしくもある。


飯谷工業では社長の菜緒子も居間側重工では副社長だ。だが、社長の自分よりも余程社長の器にふさわしいと思っていた。

「あの人たちがどこまで頑張ってくれますかね」と菜緒子は真次に笑いかけた。

「申し訳ない。このような事になってしまって」


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