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女社長 飯谷菜緒子
第8章 愛人契約
真次は菜緒子に深々と頭を下げた。

「やめてください。頭をお上げください」と菜緒子は真次に頭を上げさせた。

「誰が悪いわけでもありません。こうなったら人智を尽くして天命を待つのみですわ」と菜緒子は笑った。

あの実直な役員たちが簡単に騙されて株を売ることになってしまった理由は菜緒子にも察しはついていた。流石は好色と名高い狸親父、巧みな戦術だと思った。

色仕掛などと愚かなことではあるが、そんな愚かで単純なことが男にとっては一番の弱点である。

「ダメならふたりで小料理屋でもやりますか」と菜緒子はまた笑った。

居間側重工が乗っ取られれば飯谷工業が乗っ取られるのも時間の問題だろう。上手くいかない可能性の方が多い戦いだから、両社を失った後の事を考えると気が重かった真次だが、小料理屋でもと言って笑う菜緒子の笑顔に救われた。

菜緒子もまた小料理屋をやる人生も悪くないと思っていた。

だが、人智を尽くして天命を待つというのは自分が狸親父に戦いを仕掛けることでもあった。
好色で名高い狸親父にならつけ入る隙は必ずある。

お風呂場の大きな鏡の前で菜緒子は裸になって自分の体を見てみた。

「あたしはキレイになっているのかな?」

志乃との関係はまだ続いていた。真次とセックスをしたことは志乃にはすぐに悟られた。ますますキレイになったと言われた。そして出産を経験したらさらに女に磨きがかかってキレイになったと言われた。
お世辞ではなく本気で言っているのは志乃の求め方やセックスが激しくなっていることからも察することができた。

「うむ、あたしはキレイだ。志乃、お前を信じるぞ」

とは言ったもののどうやって狸親父を口説こう、ミツバに出向いて面会を求めるか、ダイレクトメールで誘ってみるかと考えていると、菜緒子に三葉信彦からのダイレクトメールが届いた。

ミツバが筆頭株主になったからといって居間側重工の人たちは尊重する。ついては、これからも良い関係を築いていくために食事をしたいとの用件である。

そのダイレクトメールを見て菜緒子はウケてひとりでアハハと愉快そうに笑った。

用件は見ての通りだが、自分が欲しいと言っているのは丸分かりだった。用件のとおりなら菜緒子だけを誘うのはおかしいし、食事をするのは温泉旅館だ。どうせ食事の後のお楽しみに部屋でも取ってあるのだろう。

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