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牝獣の哭く夜
第10章 砕け散る矜持
「こんな格好じゃあ、ちゃんと話せないわ。
 その証拠って何なの? 手を放して、きちんと説明してください」

 沼田と片桐は目配せした。
 抱えていた美貴の両脚を床に降ろす。

 片桐専務が鞄から出した図面や企画書は、美貴たち〈クリエイティヴ・ビュー〉デザイン設計二課がまとめたコンペ用企画書に、デザインもコンセプトも酷似していた。

 東亜設計の図面枠に描かれた設計図の日付は、コンペの二カ月前のものだ。

 それだけなら、後から東亜設計が捏造したと主張することも出来る。

 しかし――

 デジタルカメラに写っているのは、美貴が片桐専務と親密そうに寄り添っている映像だった。

 片桐は美貴の肩を抱いて、頬と頬が触れそうになっている。

 美貴は目を閉じていたが、見ようによっては、うっとりと口づけを待っているようでもあった。

「君にたぶらかされて、データを渡してしまったといえば、信用されるだろ」

 要するに東亜設計の没企画を美貴に渡したのは、片桐本人だと言いたいらしい。

 手に入れたデータを、美貴がさも自分で設計したようにコンペに提示したというのだ。

 本当は、逆に沼田が設計二課の設計データを、前もって片桐に渡したに違いない。
 写真はおそらく、この部屋で美貴がまだ意識を失っている間に撮ったものだろう。

 何もかも、この二人がグルになって仕組んだ茶番だった。

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