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牝獣の哭く夜
第11章 夜景レストラン


「沢村さん、どうかされました?」

 ふと気がつくと、諏訪の顔がすぐそばにあった。
 優しげな眼で、美貴を気遣うように軽く首を傾げている。

「あ、ごめんなさい。つい夜景に見惚れてました」

 美貴は悪戯を見つかった子供のように動揺し、取り繕うようにワインを飲んだ。
 自慰の記憶に、激しい罪悪感と居たたまれぬ羞恥心を感じて、思わず赤面する。

「僕はあなたに見惚れてました」

「まあ……お上手ですわね」

 歯の浮くような台詞も、諏訪が口にするとサマになった。

 テーブルには一輪挿しが置かれ、淡い黄色の薔薇が飾られている。
 一輪挿しは繊細なデザインのヴェネチアン・グラスだ。
 仄かな照明に、透明感のある藍色がエレガントに輝き、薔薇の芳香がそれを引き立てる。

「いや、美しさにもですが、それより、あなたの才能に。
 設計コンペの沢村さんの作品は、ずば抜けていました。
 見た瞬間に、今回のプロジェクトを任せられるのはこの人しかいないって、すぐに決めましたよ」

 夕方の打ち合わせで、諏訪は美貴の設計の意図やコンセプトをすぐに理解してくれた。
 その上で、ソレムニティ側の意向と合わない部分は妥協せずに修正を求める。
 それも決して押しつけではなく。

 何度かやり取りするうちに、諏訪の案の方が全体のコンセプトの向上になると感じることがしばしばだった。
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