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牝獣の哭く夜
第8章 あばかれる秘密
 片桐が胸のふくらみを弄びだしたときは、そんなものに官能をくすぐられるなど、夢想だにしなかった。

 侮蔑しか感じないだろうと思った。

 実際、筋張った指に揉まれても、忌まわしいだけ。

 それよりも、無能な部下の視線の方が気にさわった。
 細く不気味な眼で見つめられると、腕や首筋の産毛がざわざわと逆立つようだ。

 にらみつけてやった。

 うす気味の悪い笑みが返ってきて、つばを吐きかけたくなった。

 太くてぶよぶよした指に脚を撫で回され、さらに体温があがる。

 気色悪い柔らかさをもった不気味な感触。
 いやらしい毛の生えた茶色の幼虫が蠕動しながら、うねうねと蠢いている感じだった。

 急に肌が敏感になって、片桐の狼藉までが、不快感だけではなくなってきた。

 指先がいつ恥ずかしい先端を襲うのかと身構えていると、不思議に心臓が高鳴りだした。

 最初は、淫らなことをされそうな恐怖のためだと思った。

 けれど、いつまでも乳首に触ってこようとせずに、乳房全体をいたぶられるうちに、そこを指で襲われることを甘く期待している自分に気がついた。

(そ、そんなこと……あるわけないわ……)

 美貴は自分の感情を否定するように首を振った。

 原因は片桐の稚拙な玩弄ではない。

 無能な部下のねっとりとした視線と、卑猥な指の動きである。

(しっかりしなさいっ。あなたは今、最低の男に嬲られているのよ)

 無能な仕事ぶりや、いつも上司の自分に反抗的だった態度を想起して、憎悪をかきたてようとした。

 しかし、逆にそんな男に弄ばれているみじめさが、肌を異常に敏感にしていた。

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