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滲む墨痕
第4章 一日千秋

 クリスマスという煌びやかな言葉の響きに浮き立つ余裕もなく、年末年始が慌ただしく過ぎ、ようやく息をつく暇が与えられたかと思えば、すでに一月も後半に差しかかっていた。

 県立がんセンター緩和ケア病棟一階にある個室――。
 あたたかみのある色合いの広い部屋を窓際へ進み、白いレースカーテンを開けた潤は、目前に広がる明るい雪景色を眺めて微笑んだ。

「今日はよいお天気ですね」

 語りかけるように言い、振り返ると、ベッドに一人横たわる社長は返事をするかわりに射し込む日光に視線をやり、眩しそうに目を細めた。

「……誠二郎は」

 その短い質問には、「誠二郎の様子は」、「仕事ぶりは」など様々な意味が込められている。
 潤は、ベッド脇にあるソファに腰かけた。

「しっかりやってくれています。親しい仲居さんの話だと、物言いや態度に自信が表れてきて頼もしいそうですよ。以前より顔色もよくなって、野島屋の若旦那としての生活にすっかり慣れたのだと思います」

 そう答えて笑みを向ければ、ゆっくりと目をそらした社長は天井を見つめ、まぶたを下ろし、納得したように一度だけ小さく頷いた。

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