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滲む墨痕
第4章 一日千秋

 経験のない妻の淫花をひらかせたのはこの俺だと、誠二郎はそう思っているのだろう。たしかに初めてを捧げた相手は誠二郎だ。しかし潤は、これまで夫に対して開放的になれたことなどない。

 誠二郎と何度繋がっても、いつも胸には恥じらいを宿し、反応はどこかひかえめで、そうしているのは自らの意思であるはずなのに、最後には滲み出る物足りなさを持て余していた。その複雑な心境をうまく誠二郎に伝える術を持たない潤は、得体の知れない欲求に一人戸惑い、失望し、意識的に遠ざけようともした。
 だが、ふとした瞬間に湧きおこる色情はそれを許さなかった。夫のいない間にひっそりと欲を解放する日々を過ごすうちに、その時間が潤にとって唯一の癒しとなっていた。結局、もっとも居心地がよいのは自分自身の心の中だったのだろう。

「昭俊さん……」

 心の中に閉じこもっていた自分を引きずり出した人。姿は見えないがたしかに繋がっているその人を求め、潤は携帯電話に声をかけた。

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