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滲む墨痕
第4章 一日千秋
険しい表情にわずかな悲愴感を滲ませて、誠二郎が静かに視線を落とす。しかしそれは潤の視線と交わることなく、墨の張りついた裸体に注がれ、ふらりとさまよい、こたつテーブルの上に引き寄せられる。その冷たい眼差しがふたたび怒りの色を取り戻したように見えた直後、誠二郎がそこに手を伸ばした。
かさり、と乾いた紙に触れる音がした。その瞬間、潤は全身に激流が押し寄せるのを感じた。
「だ、め……っ」
それだけは奪わないで――心は叫び、きつく束ねられた両手と塞がれたままの下半身を必死に動かして暴れる。だがそうすればそうするほど、誠二郎はそれを上回る力で腰に体重をかけてくる。
ひらりと視界の中に現れた半紙。藤田の教えを受けて書いた、激しい想いが黒々と染み込んだ書。それを見せつけるようにして突き出してきた誠二郎は、紙の上部を左右の手でしっかりと握りしめた。