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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨
有無を言わさぬ彼の行動に、潤は胸を両腕で隠したまま立ち尽くす。寒さか、それともほかのなにかのせいか、透けた薄布にかろうじて隠されている素肌が粟立つのを覚える。
言葉なく、無骨な手が、襦袢の腰の結び目に触れた。紐をほどく藤田は無表情で、なにを思っているのかわからない。
目が合った。一度だけゆっくりとまばたきをした彼は、目元に薄い笑みを滲ませ、腕を優しく掴んでくる。
「嫌ですか」
静かに問われた。その低い声はやはり深い色を纏い、じっとりとした甘い空気を含んで、腰の奥を揺さぶる。
潤は、ひかえめに首を横にひねり、掴まれている腕を自らの意思で下げた。
降ってくる視線の質が変わった気がしたとき、肌と布の間に差し込まれた手が襦袢を肩からするりと下ろした。潤は腕を上げることなく、薄生地が素肌を滑り落ちる感触を受け入れた。