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逆転満塁ホームラン!
第2章 甲子園球場の奇跡

いくら前職が政治家秘書であっても、球場スタッフ歴はまだ一ヶ月も経っていない私。

主な業務は選手と触れ合う様なキラキラした仕事ではなくて、お客さんが来場する時に団扇やチラシを渡したりするサンプリング業務か、人が足りていないグッズ売り場の応援だった。


文句のラインは総司のワガママな行動を示す様に、未だ既読無視されている。

おまけに社会保障は何一つ付いてなくて、時給1200円だと云うのだからそれなら可愛い制服を着て時給1500円でパチンコ屋さんで仕事をしていたいな、なんて思ったりもする。

現実はそんなに甘くない、って事だろう。


総司の事だから、いざとなれば住友系列の会社で社会保障を付けて事務職でのんびりと仕事をさせればいいだろ、位思ってそうだけど……。

当事者の私はやっぱりそれなりに焦ってしまう。


「蒼井ちゃん!今日の業務なんだけど……」

球場に着くなり話しかけてきたのは、もう務めて十年になる近藤さんだった。体脂肪に包まれたお腹と垂れ下がった目尻が余計に優しい印象を与える。

「はい!」

「今日さ、食堂分かるかな?選手達が利用する方の。あそこの調理師さん達が集団でインフルエンザにかかったみたいで人が足りてないんだよね……」

「インフルエンザですか?」

「そうそう。この時期やから仕方ないんやけど、かかってない人達も一応危ないから帰宅してもらった所なんだよ。あるだけの料理は用意して貰ってるし、後はレンジでチンするか、お皿によそうかのどちらかだから……」


その先の言葉が読めないほどアホではない。

だけど近藤さんは、わざわざ丁寧に口にしてくれたのだ。


「お願い、一人で回してくれないかな?!」


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