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逆転満塁ホームラン!
第2章 甲子園球場の奇跡
昨日、一生懸命二つ折りしていたチラシがドッと音を立てて廊下に落ちた。
「ひ……一人ですか?!」
今日は、この仕事をしてからの初めての甲子園球場でのウィングス戦だ。チラシには【絶対に負けない!】なんて事も書いている。
そうだそうだ、と心の中で加戦しながら一生懸命サンプリング業務のイメトレをしていたのに──。
しかも、食堂は常時ベテランのおばちゃん達が六人ほどで回している。そこを新人の私が一人なんて……。
「いや、一応他のグッズ売り場とかサンプリング回ってる子達にも声を掛けたんだけど……」
「球団からの指示で、インフルエンザの予防接種してない子達は帰らせる方向になっちゃってさ。結構な数の子達が、帰宅する羽目になっちゃったからどこも人が足りて無くて応援に回せない状態なんだよ。」
「いやっ、まあそこは分かるんですけど……」
「分かるよ、分かる!蒼井ちゃんの言いたい事は分かる!それなら食堂を閉鎖して選手達に自分でご飯を用意してもらえばいいじゃんって言いたいんでしょ?」
「そうです、それそれ!」
「だけど、どうもお相手のウィングス側が首を縦に振らなくてさ──。」
「はあ?!ウィングスが、ですか?!」
なあに、ふざけてんだ!
ここは阪神甲子園球場。お前達のホームじゃないだろ、とチラシを踏みつけてやりたい気分になる。
まだ百歩譲って阪神側が折れないのなら分かるけど、どうしてウィングスなんだろう。
「ほら、協会としても今のウィングスにはあんまり必要以上に口を出せないというか……出したくないというか……ましてや、食堂のファンが天草と柳だって言うんだからどうしようもなくて。」
本当に申し訳なさそうにしてる近藤さんに対して、何故か私が申し訳ない気持ちになりそうだ。