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逆転満塁ホームラン!
第9章 何気ない優しさ
「大丈夫?里奈ちゃん」
自分のおしぼりで、すっかり濡れてしまった私のシャツを拭いてくれる夏菜子ちゃんだけど……んー、なんか嫌な感じ。
さっきユカちゃんと目合わせて『こいつヤバイね』みたいな心の会話してたじゃん?見逃してないし。
と言えたらどんなに楽なんだろう。
笑って誤魔化すしかない空間に、どこか寂しさを覚えた。
確かに……溢してしまった私が悪いし、私の不注意だけどさ。今までなら、こんなヘマしても誰も嫌な顔なんてしてなかったし『馬鹿じゃねえの?気つけろよ』何て言いながら、せっせと後片付け手伝ってくれたのにな。
というか、私が逆でも同じ事をするだろう。
お酒を飲む場所で、こういう失敗は仕方がない。
飲んでる人がミスをしたら、近くに居る人がケツを拭くのが当たり前だと思ってる。自分もやらかしているかもしれないからこそ、相手の"やらかし"に一々、腹も立てない。
「指とか切れてない?」
「うん。」
「服、洗って来た方が「んー、ちょっと煙草吸いたいし外の空気浴びるがてら乾かしてくるね。」
わざとらしい心配に本気で嫌気な顔をしてしまったら、それもまた大人げないだろう。
だからこそ、少しこの場を離れようと思った私は咄嗟に思いついた事を言ってから足元がフラつかないように席を立った。