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逆転満塁ホームラン!
第11章 麻布女子になれないワタシ
「でね、里奈ちゃんって凄くて……あの天草選手に手振りかざして『コラ、天草あ!』なんて言いながら追いかけ回すんだよ?」
何がそんなに面白いのか私と天草の日常を、まるで目の前で見たかの様な口ぶりで話すトマパン。
成金社長は『あの天草に?』と、これまた知ったような口ぶりで相槌を打つ。
「アイツって昔はかなりのヤンキーだったんだろ?よく女の子にそんな口利かれてキレないよな」
「天草さん優しいよね、ね?夏菜子。」
「うん、私も飲み会で何度かご一緒した事有りますけど女の子の意見を優先してくれるし、柳君も同じく……あの二人は本当に優しいですよ〜」
「だよね?里奈ちゃん」
「あっ……そうやね、案外優しかったりするよね。」
──どうしてこんなにイライラしてるんだろう。
帰ろうと思う自分の心とは裏腹に、この場の会話に腹が立ってビールがどんどん進んでしまう。
……何を根拠に優しいと言ってるのか、それを聞きたかった。いや、確かに内海さんも柳君も天草も、みんな不器用だけど人をちゃんと見てるし根は優しい人達だ。
私が風邪気味で仕事に行けば、チワワから様子が変だと聞いたのか急いで体温計を持ってきて熱を測らせる内海さん。
冷静に場を判断して「あそこは里奈が出ない方がいいべ、右から3番目の女は追っかけだから里奈に危害加えるかもしれねえ」と真面目な話しの時だけ下の名前で呼んでくる柳君。
そして──不器用でウザったくて嫌味ばかり垂れる天草も、ホテル手配でミスをして落ち込んでる私を見つけると何も言わずに、ただ横で煙草を吸ってくれるんだ。
帰り際に私のバッグの中に大好物のイチゴオレも入れてくれる。どこで私の銘柄を覚えたのかは知らないけれど煙草と共に……。