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逆転満塁ホームラン!
第2章 甲子園球場の奇跡
「あ、誰かに似てると思ったら──!吉瀬美智子に似てるって言われない?」
「はい???」
ぶっきらぼうに頼まれたオレンジジュースを、見た事もない若い子に渡してから厨房前を陣取る彼に声を掛ける。
「いや、似てるよ。吉瀬美智子って純日本人顔に見えて味方によったら海外の血流れてる様にも思えるし。」
「あたし、純大阪人なんですけど。」
「それを言うなら純日本人、でしょ?!……はあ、なんかスッキリ、解決した感じだわ。って事で吉瀬ちゃん、俺はチキンカレーちょうだい。」
「チキンカレー、ですね。」
どこか総司に似たマイペースさを感じて、思わず笑いが零れそうになった。
プロ野球選手なんだから、総司みたく我が強くて己のペースを持ってるのは当たり前なんだけど。
「あ、福神漬けは要らないからね〜」
「分かりました、ありがとうございます。」
きっと阪神戦で此処に来た時は福神漬け抜きのチキンカレーが定番なんだろうな。
注文の仕方に慣れが見えて、そんな考えになった。
「あ、きたきた。俺らのワガママ王子の登場だよ、吉瀬ちゃん。」
何故か、吉瀬ちゃんと呼ばれている自分に違和感だ。
「だから私は吉瀬美智子には似てないですし、ちゃんと蒼井って苗字あります「内海さん、またナンパっすか」
白米をよそいながら、ブチブチつぶやく私の文句を遮ったのは紛れもない……ウィングスが誇る大エースの柳恭平だった。
どうして内海さんが居るのに?と思って、すぐに解決した。内海さんは左投げで柳君は右投げだ。
「しかも阪神の球団スタッフとか絶対ダメなやつでしょ。」
「よく言うわ、俺はおばちゃん達が居なくて一人でこのバカデカイ食堂を回す羽目になった吉瀬ちゃんを慰めてるだけ。」
「一人で?」
「そう。お前が言ったんだって?フロントに。どうしても食堂の飯が食いたいから開けさせろって」
「しかも吉瀬ちゃんは球団スタッフじゃなくて球場スタッフだから。」
何故か知らないけれど、庇ってくれている内海さんを宥める様にしてお水とカレーを手渡した。
それでも彼は、まだここを離れようとしない。
──普段、よほど居心地が良いんだろうな。私はあまり食堂のおばちゃん達と話をした事が無いけれど、誰一人辞めずに働いてるのを見るときっと良い人の集まりみたいなもんなんだろう。