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逆転満塁ホームラン!
第11章 麻布女子になれないワタシ
夏菜子ちゃんと由加ちゃんは泣きながら端っこで怯えている。そして、その二人には"当たらないように"……でもピッチャーらしく顔面至近距離にグラスを投げつけている柳くん。
そんな彼を後ろから抱きしめるようにして止めているのは……逢沢くんだ。
「吉瀬さん……吉瀬さんっ、分かりますか?!」
暖かい手は、どうやら二軍調整中の青木くんの手だったみたい。
今にも泣き出しそうな彼に一回だけ首を縦に降ってから、情報整理の為、私が意識を取り戻した事に気付いていない他の連中を見回した。
「ダメっすよ、天草さんッ!!」
「うっさいねん!お前もしばき回してまうぞ!……おい柳、これ持っといてくれや。」
体型の差なんて余り無いはずなのに……。それでも藤堂くんの歯止めなんて全く効いていないのが此処からでも分かる。
まるで人形を渡す様に必死に止められている天草が柳くんに手渡したのは、私に謎の薬を飲ませたバブリー社長。
目を伏せたくなるほどの流血量だった。
目は腫れているし、口の周りなんて自分の歯のせいか暴力のせいかは分からないけれど切れに切れまくってる。
もう、殴られすぎて……そして怯えすぎて……意識なんてほぼ無いに等しいだろう。タオルを投げ入れられる前のボクサーのようだ。
何も返事をする事なく、己を止める逢沢くんを『邪魔だ』と言う様に振り落とすと……柳くんは天草に言われた通り、例の男の後ろから両腕を回す。
「もうっ……止めてください!俺達が……俺達が悪かったですから!」
「お前、自分の女がこんな場所で薬飲まされて回される寸前の所見てみ?俺達が悪かったです、で許せるんか?なあ、どうやねん。」
186cmの長身の彼の長い足に、必死に纏わり付きながら止めているのは……誰だっけ。名前は忘れたけれど、総司と同じ会社の人だ。私の前に座っていた子。
その子も、もう一人の子も、成金社長まではいかなくてもよほど殴られたのだろう。
顔面は原型なんてほとんど泣く、涙で余計グチャグチャになっていた。
──ああ、血祭りと涙祭りの並行開催だ。
こんな洋画やヤンキー映画でしか見ない場面を、この年齢で、しかも西麻布というハイソな土地で見る事になるとは想像もしてなかった。