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逆転満塁ホームラン!
第11章 麻布女子になれないワタシ
「頼みますから……天草さん、柳さん……どうか落ち着いて下さい!!」
続々と部屋に入ってくるのはお店の従業員の人達。彼ら二人にも理性は有るのか、決して手は挙げなかったけれど止める気も無いのだろう。
一応、気を使ってくれているのか先程よりも大きくなっている店内BGMはいつの間にかEDM調の音楽に変わっていた。
これなら……廊下に出る事さえ止めてしまえば、他の人達もまさか此処まで喧嘩をしているとは思わないだろうし、殴っている相手がウィングスの選手だとも思わないだろう。
「蒼井さんっ、早く止めないと…」
「──。」
そういえば、松本さんも野茂くんも言ってた。
いつの時代も天草と柳のダブルコンビは恐れられていたし、沢山の伝説を持ってる、と。
そりゃあヤンキーのメッカである中学で野球を本気でしながらもイケイケにイカしていたのなら、今の状況は当たり前かもしれない。
まるで以前聞いた【相手が10人近く居るのに一人で襲いかかってほぼ無傷のまま次の日、ホームランを打った】という天草の1番のレジェンドエピソードを、再現しているみたいだ。
……それに加え、柳くん。
どこかいつも見る瞳とは違う、何て言うんだろう。色が無いというか、怖いというか。
口答えする男3人を、天草が手を挙げる前に自らの拳で殴りにいくその姿勢が彼の本当の怖さを教えてくれている。
「ヤバイっす、他の人達に気付かれたり店舗に通報でもされたら柳さんと天草さん……」
「分かってるよ。」
「それなら……ッ!もうダメっすよ、あの人達には蒼井さんの声しか聞こえないんっすよ!」
必死の訴えをしてくる青木くんは確か私と同じ年齢だったかな?涙が抑えきれていない彼の頭を撫でてから深呼吸をした。
分かってる。
もしここに警察でも来たら──相手が被害届でも出したら──こいつら二人は終わりだろう。
多分私の事を考えて薬の話しはしないと思う。酒の場のイザコザが原因で相手を殴ってしまった、とか昔の任侠映画のような事を言い兼ねない【古さ】を持っているのだ。