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逆転満塁ホームラン!
第1章 銀行系の御曹司クン

隣の椅子の上に置いたバッグの中からスマホの光が見えたけど、無視を貫き通して住友総司の方を向いた。

「……でもさあ、総司。」

「なんだよ、やっと普通に話す気になったか?」

集合したのは午後20時、店内は今日が土曜日でホステスさん達のお店がほぼ閉まっている事も有りその時間でもお客さんは私達二人とテーブル席の男達しか居なかった。

入った時から、このテンションで総司に愚痴を垂れ流していたのに──こいつときたら、何だかんだ憎まれ口を叩きながらそれを聞いてくれるのだからやっぱり大事な友達だ。


「無謀やったんかな、と思うよ。正直な話。」

「……。」


「だってよく考えてみて。高卒で家柄も超普通な私が青山先生の私設秘書になれた事がまず奇跡やろ?」

「その上、府知事の安藤先生の秘書になりたいなんて口に出したから──まあ、こうなったワケで。」


「じゃあ蒼井里奈(あおいりな)25歳は、要求を飲まずに出世も今の仕事も諦めるってことだな?」

なぜかフルネームで年齢までも暴露した総司を睨みつけながら言い返した。

「だって冷静に考えてみて、七年も一緒にいた青山先生に『安藤さんの私設秘書になる方法が有る。それはあの人の愛人兼秘書になることだ!』って言い切られるのよ。」

「断ったら俺の顔がないからな。とも言われた。」


「それって、断ったら私はこの世界でやっていけないって事だし断らなかったら──安藤先生の愛人にならないとダメ、ってそういう事やん、つまりは。」

「だな。」


「総司の言う通り、家柄が良かったらここまでナメた態度は取られなかったやろうし……学歴が有れば表口から堂々と秘書面接だって受けれたと思う。」

「でもそうじゃない私は、この女が一番乗った時期を安藤さんに捧げないとダメって。考えただけでため息ばっかやわ。」


ため息を吐くと幸せが逃げる、という話が本当なら多分私はもう既に二週間分の幸せを逃してるだろう。

それだけ、今日は総司と会う前も会ってからもため息の嵐だった。

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