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逆転満塁ホームラン!
第3章 不吉な予感
──懐かしい間奏が始まったのと同時に、空のグラスに満タンのアサヒビールが注がれた。
勿論、瓶を持って憎たらしい笑顔で早く飲め、と無言の圧力を掛けてきているのは天草一人しか居ない。
「……小堺さんと知り合いだったんですか」
「そこから来るん?」
「別に。とりあえず聞いとこうと思って。」
「小堺はPLOの後輩、あいつはスタメン定着もしてなかったけど人当たりが良いし面白いからかわいがってた。」
へえ、小堺さん野球してたんだ。それは意外だった。
まあ、確かに私と総司の話題に付いてこれてたから無知では無いだろうな、とは思ってたけど。それなら好きな球団くらい教えてくれたら良かったのに。
「──2つ目の質問します、私とは何処で出会ったんですか?ケータリングの時に話した感じだと本名、知ってはりましたけど。」
「あれ、小堺から聞いてへんの?」
「……何をですか?」
本気で不思議そうな顔をする彼に一瞬、私が腰を抜かしそうになった。
こんな普通の顔も出来るんだ、という思いと純粋に『何が?』という疑問しか頭には無い。
「……へえ、そうなんや。」
「勝手に納得しやんといてくれます?」
「──俺が初めて蒼井を見たのは、お前が焼肉屋なのにイカの一夜干しをオーダーしてビール飲みながら青山先生が英検の一級を一ヶ月で取れって言っただ何だ愚痴ってた日。」
「それって……三ヶ月前くらいですよね?」
「そう。で、その一ヶ月後に俺達ウィングス球団が奥のテーブル席で宴会してる時にお前がまたフラリときたやろ」
「前の時みたいにカウンターに一人で座って、小堺に『腹立つから英検一級も取ったし、フランス語検定で二級も取ったったわ!あのじじいだけ、人の事何も考えとらん』ってまた愚痴ってた」
「っ……あっ、あの日……ですか。」
私の語尾が小さくなるのは当たり前だ。
こいつの話が正しければ、私達が遭遇したその二回は、私が絶好調にクダを巻いておっさん化していた日ベストファイブに入るであろう日、なんだから。