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逆転満塁ホームラン!
第4章 深夜の炭水化物
この北新地、上通というメイン通りには夜中ということなど関係なく何台ものタクシーが空車ランプを付けながら流しでゆっくり走っている。
その内の一つに長い手を挙げると、またも問答無用という風に私を押し込めた。
「難波のANAクラウンまで」
「はあ?ちょっと天草?!」
「何やねん、声デカイわボケ。」
バックミラー越しに驚いた顔の運転手さんと目が合う。スミマセン、と謝罪しながら頭を下げた。
「何よ、ANAクラウンって。あんたらの宿舎は兵庫やし、アタシあんたとこのままホテル行く気なんて更々ないけど?!」
「別の部屋やったらええんやろ?」
「はあ?」
「だから二部屋取ったらええやろって言うとんねん。誰がお前みたいな、じゃじゃ馬抱くか。自惚れんのも大概にしとけ」
コイツは酔ってないみたいだ。
そこまで据わっていない目は、車外のネオンを見つめている。感情も何もない目。
その時に声を張るのを辞めた。
──多分こいつはあたしが思ってる以上に色々と闇を抱えてて、自分がした行動を気にしないフリして気にするタイプだ、と思ったから。
「……。」
「ANAクラウンって難波の心斎橋の裏通りやんな?」
「そう。」
「部屋空いてるかな?」
「空いてる。ホンマはミサト連れて帰るつもりで、一緒に寝たくはなかったから二部屋取っとる、既に。」
あらあら、それは用意周到で。
というか、野球選手が女を連れ込む様に宿泊先のホテルとは別で部屋を取ったり、同じホテルでももう一部屋取ったりするのは知ってたけど……
一緒に寝たくない、っていうのは週刊誌でも見た事ないし聞いた事もないレアなパターンだ。
多分ミサトちゃんだから、とかではなくてコイツが人と一緒に寝たくないタイプなんだろう。
「横ちゃんラーメンって知ってる?」
「知らん。」
「ちょうど、ホテルの左路地入ったところにあるねん。露店で五人しか座られへんけど、開いてたら食べよ」
「……この時間から?お前と二人で?」
「えっ、何……いやなん?!あたしの事連れ出しといてあたしとはラーメン食べたくないってこと?!」
思わずこちらも本気モードだ。
何だそれ、誘っておいてそれはないだろ。