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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
…道場の中からは、元気な子供たちの声が響いていた。

鬼塚は少し離れた木立の陰から、道場の中を覗き見た。

…中には白い剣道着に紺の袴を身につけ、真剣な表情で竹刀を振る春海の姿があった。

鬼塚は思わず微笑む。
春海は小さいながらも、懸命に稽古に励んでいてその様子はとても可愛らしかった。

…思わず来てしまった…。

先日、小春とこの近くの神社で偶然に再会した。
小春は、すっかり大人の美しい貴婦人になっていた。
小春には子どもがいた。
小春に良く似た美しい男の子だった。
少し話をして、直ぐに別れた。
小春が鬼塚のことを思い出すのを恐れたのだ。
鬼塚を思い出すことは、小春にとって忌むべき過去を思い出すことになるからだ。

…もう会うのはよそう。
一度会えただけで充分だ。
そう、自分に言い聞かせていた。

…だが…。

来てしまった…。

春海はこの道場に通うことになったと小春から聞いたので、鬼塚はつい、足を向けてしまったのだ。

鬼塚は腕を組みながら、春海を見つめる。
春海は小さな身体で必死に年上の門下生に向かって行っていた。

…俺と血の繋がった子ども…。
鬼塚の胸が、今まで感じたことがないような温かな気持ちに満たされる。
春海への愛おしさがひたひたと押し寄せる。

…そっと、優しい声が聞こえた。
「…こんにちは…。…徹さん…でしたわね…?」

はっと振り返る。
…そこには小春が、静かに微笑みながら佇んでいた。
「…あ…」
驚きのあまり、言葉に詰まった鬼塚を気にする様子もなく、小春は頭を下げた。
「先日は、春海が危険なところをお助け頂いて、本当にありがとうございました」
「いや、そんな…。礼には及ばない…」
しどろもどろの返答にも小春はにっこりと笑った。
「…もしかして…春海の様子を見に来て下さったのですか?」
鬼塚は咳払いをし、些かばつが悪そうに首を振った。
「…ここは家の近所だから…通りかかって…たまたまだ…」
「そうですか…。またお会い出来て嬉しいですわ」
屈託のない無邪気な言葉に、鬼塚は思わず小春を見下ろす。

…小春はレースのブラウスに綺麗な薄桃色のカーディガン、白地に小花模様の長いスカートという清楚で愛らしい服装をしていた。ストラップ付きの赤い革靴が女学生のように可愛らしい。

…綺麗だな…。
鬼塚は思わず小春に見惚れた。
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