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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
「…あんた…あんた…しっかりして…」
…女の声に揺さぶられ、鬼塚ははっと目を覚まし飛び起きた。

…小さな行灯…粗末な寝具…側には乱雑に脱ぎ捨てられた縞の着物…そして、黒の裾引きの絹の着物や銀糸の帯も折り重なっている。
心配そうに覗き込む白い貌には見覚えがあった。

鬼塚は大きく息を吐く。
「…夢か…」
女が気遣わしげに手拭いで鬼塚の汗を拭う。
「随分、魘されてたんよ。…やっぱり硫黄島っちゃあ、そげに恐ろしかところなん?」
…女は鬼塚が戦争の恐怖の後遺症で魘されていたと思ったらしい。
その方が都合が良いから鬼塚は黙っている。

「水をくれ」
「うん」
女…美鈴はさっと水差しの水を注ぎ、鬼塚に渡す。
…少し熱を含んだ拗ねたような眼差しで、水を飲み干す鬼塚を見る。

「…小春…て、誰なん?…あんた、何回も呼んどったよ…。
…もしかして…好きな…ひとなん…?」
潰れ島田はとうに解け、下ろし髪を紅絹で肩辺りに結んでいる美鈴は年よりずっと幼く見えた。

鬼塚は黙って美鈴の手を引き寄せ、褥に組み敷いた。
「…あ…っ…!鬼塚さ…」
とっさに抗う女の顎を掴み、貪るようにくちづける。
緋色の襦袢のしごきを解きもせず、白い脚を強引に押し開く。
まだしっとりと濡れそぼる女の花陰に猛り狂った牡を押し当てる。
「…や…だめ…明日…お稽古早いけん…」
涙ぐむ美鈴の耳朶を噛む。
「…お前が欲しいんだ…頼む…」
女の身体からふっと力が抜ける。
くたりとなった身体を鬼塚は、花を散らすように強引に奪う。
「…ああ…っ…は…あ…んん…っ…」
甘い声を上げ、鬼塚にしがみついてくる柔らかな女の身体を思う様に犯す。
抱き潰すように容赦なく犯す。


…小春の泣き声は、もう聞こえなかった…。
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