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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
食事が済んだ二人は、ダイニングルームを出た。
帰り際にさりげなく振り返って見た小春は少女らしく時折、母親に甘えていた。

「人参嫌い。残して良いでしょう?お母様」
「笙子さんたら…。一口くらい召し上がったら?」
「いいじゃないか。笙子、ここのマロンシャンテリーはほっぺたが落ちるほどに美味いんだぞ。お土産用にも頼んだから、たくさん食べなさい」
「お父様!ありがとう。大好き!」
父親が小春の頬を愛しげに摘んだ。
「まあまあ、貴方は笙子さんに甘いんだから…」
母親が苦笑する。


眼を見張るような美しい少女に裕福で優しい両親…。
…理想的な…夢のように仲睦まじい家族の姿がそこにはあった。

鬼塚は心底安堵した。
…小春はあの事件を思い出してはいないようだ。
まるで産まれながらの良家の令嬢のように成長している。
…優しい養父母に大切にされて…。

良かった…本当に…。

鬼塚は心の中で呟くと男の後を真っ直ぐに追い、二度と小春を振り返らなかった。



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