この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
two roses & a lily
第9章 退行の解除
ジョンは看護士に連れられて部屋を出た。僕が部屋にいたことには気付いていないようだった。
「退行治療が難しいと身を持ってわかったかな。」
「はい、退行を解除するコツとかあるんですか?」
「ないよ、解除できない原因だって、本人にすらわからないんだ。
今に戻りたくない何かがあるのか、過去に留まりたい何かがあるのか。
単純に考えればそのどちらかだろう。
ただ、我々の知らない過去に戻るんだ。
そして、本人が知らずに傷ついた原因を探るんだ。壊れるほどに傷ついた体験をもう一度体験させるんだから、何が起こるかわからない。
その上で、間違った方向を修正させ、場合によっては記憶を塗り替えなきゃならない。
上手くいくという保証なんかないんだ。」
「はい。」
「でも君が、すぐに迎えにいって、刺激しないようにして連れ帰った行動力は素晴らしかったよ。」
「やはり、しばらく一人にしない方がいいでしょうか。」
「今回、昼寝して目覚めたら退行してしまったんだよな。
今も、あえて今の記憶に戻したけど、だからといって退行しないとは言えない。
そうすると、出来る限り、側にいた方がいいだろうな。」
「そうですよね。しばらく学寮に一人で居させないで一緒に暮らします。」
「うん、それがいいと思うよ。」
カウンセリングを終え、ジョンが出たのとは違うドアから出る。
「ジョン、帰ろうか。」
「ボブ、すまない。あの街まで迎えに来てもらって。」
「いや、いいんだよ。一緒に治療に取り組むんだろう?」
「ああ、」
「それと、ジョン、しばらく家に一緒に住もう。」
「それは、メアリーにも悪いし、」
「いや、一緒にいた方がいい。何かあった時に対応出来るし、もし、君が、僕の知らないところに行ってしまったら、探せないから。
学寮に行って手続きして、必要なものを持って家へ行こう。まずは、今からの授業に出るよ。」
「あ、ああ。」
「何か言いたいことがあったら話してくれ。
一緒に治そうとサインしたんだ。僕たちの間に言えないことがあっては良くない。」
「すまないな、ボブ。」
「友達なんだ、お互い様さ。」
遠慮するジョンを連れて大学に戻った。