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朧_ 霞む 愛しい影
第1章 この世では 叶わぬとしても。
*佑
兄弟二人 屋敷へ迎えられたけれど
その後、兄様は 直ぐに
新しい父上が 遣わされる処へ
共に 旅立つこととなり。
先だっての 祈願の為
お祖父様を筆頭とした 御社への参詣の際
わたしは 神主様の目に留まったらしい。
その日から 兄様の出立まで
ひそかにお詣りしていたのを
「そのように 痛ましい貌をせずとも
兄上は 戻られる、戦ではあるまいに」
ふいに呼びとめられたのが
まさに 見送ったのちのことで
期せず落ちた 涙に俯向く肩へ手を掛け
胸の中へ 招きいれてくださった
花の名は 識らないけれど
淡く漂う甘い香と
冷く清んだ 空の下で
ごく微かにあたたかな日射し
… そして 人の肌の温もりに
優しく包まれ
気がつけば わたしは
息を切らして泣いて居り。
我に返りかけ 泣き声を
抑えようとすると
「今は 泣いてもよい。
ただ、もしそなたが 此の世において
独り生きてゆく事に 怯えているのであれば」
「っ、、 」
言葉の先を 遮る様に
攣れてしまった息に揺れる 背を撫でられ
「私には 解る。そうは成るまい」
静かに頤を上向かせられても
瞼を伏せたままの、わたしの額に
幾らか乾いた唇が 触れ
そして再び、腕のなかに包まれた
兄様を 裏切る事に成るのだろうと思うと
離れるべきであるのに
そのぬくもりを
自ら抜け出すことは 出来なかった
兄弟二人 屋敷へ迎えられたけれど
その後、兄様は 直ぐに
新しい父上が 遣わされる処へ
共に 旅立つこととなり。
先だっての 祈願の為
お祖父様を筆頭とした 御社への参詣の際
わたしは 神主様の目に留まったらしい。
その日から 兄様の出立まで
ひそかにお詣りしていたのを
「そのように 痛ましい貌をせずとも
兄上は 戻られる、戦ではあるまいに」
ふいに呼びとめられたのが
まさに 見送ったのちのことで
期せず落ちた 涙に俯向く肩へ手を掛け
胸の中へ 招きいれてくださった
花の名は 識らないけれど
淡く漂う甘い香と
冷く清んだ 空の下で
ごく微かにあたたかな日射し
… そして 人の肌の温もりに
優しく包まれ
気がつけば わたしは
息を切らして泣いて居り。
我に返りかけ 泣き声を
抑えようとすると
「今は 泣いてもよい。
ただ、もしそなたが 此の世において
独り生きてゆく事に 怯えているのであれば」
「っ、、 」
言葉の先を 遮る様に
攣れてしまった息に揺れる 背を撫でられ
「私には 解る。そうは成るまい」
静かに頤を上向かせられても
瞼を伏せたままの、わたしの額に
幾らか乾いた唇が 触れ
そして再び、腕のなかに包まれた
兄様を 裏切る事に成るのだろうと思うと
離れるべきであるのに
そのぬくもりを
自ら抜け出すことは 出来なかった