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第1章 第一章

深淵を覗き込むとき、深淵もまたお前を覗き込んで
いるのだ。とは誰の言葉だったろう。

涙で潤んだ瞳で、男の黒い瞳を覗き込ませられ
ながら、自分の心の薄皮がぺりぺりと剥がされて
いくような感覚を味わっていた。

「……ぁ……ぅ…ぁあ…」

一転優しい口調で男は言う。

「自分の瞳を見ることは一生叶わない。」

ゆっくりと

「だから他人の瞳を覗き込むことでしか、
自分の心を覗き込むことはできない。」

「…ぅ……ぁ…」

ぴしっと、心の殻にヒビが入る。

「汚いと、醜いと、黒いと思っている自分を
良く見ろ。本当にそうか？」

反射的に目をそらそうとする。

「こっちを見ろ。逃げるな。逃げられると
思うなよ？」