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地獄
第20章 母として妻として
 夫は眠っている。
 風呂に入りそのあと缶ビールとカレー二杯を食べ、皿洗い中にキスをした。


「子供達は宝物、奈緒子は俺の全て」


 何時もの夫の決め言葉を聞いて、笑顔で「好き」と返す。形式的ではあるがそれが嬉しかった。


 奈緒子も寝ようとした時、メールが入った。
 ハッとした顔でスマホに手を伸ばし、手にすると夫と子供達を見る。
 夢の世界の住人から現実の世界に、引き戻してはいないことを確認するとメールを開いた。
 案の定、坂本だった。


 三度、言うぞ。
 明日はこの時間だ。
 たっぷりと可愛がる。
 エロ顔、エロ女、奈緒子! 俺の女。
 


 これだけだった。
 動画も画像もない。
 しかしそれはそれで、不気味に思った。奈緒子が唇を噛む。やるせない憤りに、明日が来ないことを願っていた。
 しかし時は止まらない。

 
 奈緒子が弄ばれるカウントダウンはとっくに始まっていた。


 それを眠って待つしか、今はなかった。
 奈緒子が眠る。
 この時だけは、明日の辱めを考えずに……。
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