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どこか壊れている
第1章 存在意義

ピンポーン。店のチャイムが鳴る。
「やあどうもあかりさん。」
少しかすれた低い声で男は言う。この男は大阪府内に十数店舗の飲食店を経営するオーナーだ。
恰幅が良く、Tシャツから伸びる腕には大胆に刺青が彫られている。そのせいか初見では幾分か背が固まったものだ。
「こんばんは智(さとし)さん。随分久しぶりじゃない。もう少し顔を見せてくださいね。」
「つい二週間前に来たばかりじゃないか。ここのところ新店舗の企画で忙しいんだよ。」
「あらやだ、すぐに仕事の話なの。こっちで聞くわ。」
この男性向けエステサロン、大阪は心斎橋の、御堂筋から少し脇に入った雑居ビルの3階にある。部屋は二つで、玄関入ってすぐが面談室。二人がけのソファーが一つ。その前に低いテーブル。簡易的なキッチンも付いている。その奥のもう一部屋が施術室だ。
この店では、まずソファーに座って男性の仕事の話や家族の話などを聞く。そのあと一時間ほどかけてオイルマッサージを行う。

