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官能書道/筆おろし
第5章 甘心
 抱き合ったまま陶酔に浸っていたふたりだが、最初に身体を起こしたのは涼子だった。

「そろそろ、教室の時間よ」

 幸せそうに見上げてくる美少年の髪を、涼子は可愛くてならないとでもいうように、くしゃくしゃっとした。

「ほら、起きる起きる。
 ふたりとも汗びっしょりになっちゃったね。
 もう一度、シャワーを浴びないと」

「……夢のようでした」

 澄夫がとろんとした眼で、ぽつりとつぶやく。

「夢だと思いなさい」

 涼子は優しく言って、そっと口づけをした。
 先ほどの狂おしいばかりの口づけと違って、優しい、姉が弟にするようなキスだった。

「でも忘れちゃ駄目よ――夢を」

 温かいもので涼子の胸は充たされた。
 もしここで書作するなら、筆意はこれしかない。

 ――甘心

 快く包み込む甘いこころだった。


                      (了)
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