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世界で一人だけの君へ
第11章  槙 璃子の力
撮影が始まってからも何かというと璃子さんをかまう。
俺を記憶に残してもらうため。

彼女が他の俳優さんのメイクをしていてもずっと話しかけた。
そのうち璃子さんはあからさまに嫌そうな顔をするようになった。

それでもいい。
忘れられるよりは嫌われてでも覚えてほしい。



ある日の撮影
スタジオでは主演の渡部さんが息子役の谷垣君と喧嘩をするシーンを撮っていた。

俺の出番はこの後上司の渡部さんを自宅へ迎えに行くという設定になっているのでスタジオの隅で出番を待っていた。

すぐに終わるだろうと思われていたこのシーンがなかなか終わらない。
大御所の渡部さんの口からセリフが出てこないのだ。
あるセリフまで来ると必ず口を閉じてしまって苦しそうに顔がゆがむ。

「ワタちゃん、もう一回いくよ」

監督が溜息交じりに指示をする。

演技中の芝居を見ながら近くにいたスタッフに小声で声をかける。

「だれか璃子ちゃん呼んできてくれ」

俺はその言葉に反応する。

「俺呼んできます。この分だとまだ出番なさそうなんで」

「頼むね」

片手を上げた助監督さんに笑顔で返してスタジオを出た。

メイク室を覗いても彼女はいなかった。


窓から外を見ると満開の桜の木の下に座って
顔を上げて桜吹雪を受ける彼女の姿が見えた。

胸を突かれるほど儚げでそのまま桜と一緒に消えてしまうんじゃないかと思わせた。
まるで桜の妖精...
何故か彼女を失ってしまうと思った。

そう思ったら走り出していた。


目の前に現れた璃子さんはガラス越しよりずっと儚げで
本当にいなくなってしまいそうだ。

なんとか璃子さんをこの世界に留めておきたくて
俺は目を閉じていている璃子さんの唇に
kissをした。


うっすらと璃子さんの瞳が開いて


僕の顔を見た瞬間



彼女の顔が驚きで固まった。








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