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世界で一人だけの君へ
第11章  槙 璃子の力
「あんまりにも綺麗で桜の妖精かと思った」

僕は思ったことを口にしていた。

「...」

璃子さんは僕を凝視したまま瞬きもしない。


「槇さん、そんな無防備だと襲っちゃうよ」

照れ隠しにそんなことを言ってみたけど、璃子さんの顔は引きつったまま。


「そんなにビックリした顔しなくても」


と璃子さんの顔を覗きこむ。


「ビックリするでしょ

 ふつう... 」


やっと出たと思われる言葉。
固まったままの璃子さんに近づく。

「隣いい?」

璃子さんはいぶかしげに見つめたままで

「どうぞ。
 撮影、ないんですか?」

言葉はとてもぶっきらぼう。
どんだけ嫌われてんだか。
足を投げ出して寝転がった。

「撮影?
 あー、前のシーンが押してて
 テイク積み重ねてるよ」

全身で伸びをする。
芝生に寝転がるなんて久しぶりで気持ちいい。

「誰のシーンなんですか?」

僕はちょっと意地悪をして聞こえないふりをした。
だって用件を言ったら璃子さんはすぐに行ってしまうでしょ?

「あー 気持ちいいね♪
 ひとりでこんないいところで休憩なんて槇さん、ずるいな」


「質問に答えてください。
 誰のシーンなんですか?」

璃子さんの声がちょっとイラついている。


上目使いで璃子さんを見つめて

「ね、槇さん。まだまだかかりそうなんだ。

 監督なにが気に入らないのか全くOK出さないんだよ。

 ちょっとデートしようよ」

僕はにっこり笑った。
けど、璃子さんは怒ってしまったようで

「わかりました。自分で見に行きます」

立ち上がりわざと僕にかかるようにお尻についた芝生を払う。

「そんなことしたって可愛いなって思うだけだよ」

「...」

僕を睨む璃子さんは完ぺきに怒っている。

僕はくすっと笑ってから

「あ、監督が槇さんのこと探してたよ」

璃子さんの背中へ声をかけた。

「はあ?! 

 なんで先に言わないんですか!!」


璃子さんは走り出した。



怒らせてしまったみたいだ。
でも撮影はまだ始まったばかり。
これからいくらでもチャンスはある。

走り去る璃子さんを見つめていた。



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